総入れ歯からインプラントへ

●手術したその日から噛めるようになる方法

普通インプラントの手術をしたら、最低でも3ヶ月はインプラントを入れた部位で噛めないのですが、この方法ならインプラントを入れたその日から噛めるようになるという、ちょっと信じられないような方法です。もちろん、条件は限られます。まず、下顎あるいは上顎の歯が全部がないこと(無歯顎)、あるいは歯が残っていても抜いて無歯顎になる予定であること。

術前診査
●奥にインプラントを入れられないなら

       

患者さんは、79歳の女性でとてもお元気な方です。下顎に、6年前に私が作りました入れ歯を使って頂いていました。真ん中に2本あるのは、O-Pアンカーと呼ばれるボタンのようなもので、入れ歯の脱離を防いでいました。とはいえ、基本的に総入れ歯と言える症例です。これまで、たいていのものはお召し上がりになっていたそうですが、それでもイカや貝などの噛みごたえのあるものは自然に避けていたそうです。また、イチゴの種のようなものが入れ歯の下に入ってしまうとものすごく痛むのですが、お仕事柄会食が多く、人前で入れ歯を外す訳にもいかないため時々辛い思いをされていたそうです。

今回、真ん中の2本のアンカーとなる歯がグラグラしてきて、痛みもあるため抜歯しなければならなくなりました。写真をご覧頂くと分かりますが、前の方の骨が高くのこって奥の方の骨がかなり吸収してしまっています。このような顎の状態で総入れ歯を作ると、「やじろべえ」のように、真ん中の歯を支点にして入れ歯が動いてしまいます。しかも上顎が天然歯によって固定された強固なブリッジでできているため、ほとんど粘膜で支えなければならない総入れ歯を安定させることは、正直言ってかなり高度なテクニックが要求されます。

今回、これまでの入れ歯も比較的不自由なく使えていたためそこそこの総入れ歯なら作ることは可能です。また、インプラントを2本入れてこれまでと同じような取り外し式の入れ歯をつくるか、インプラントをたくさん入れて取り外しのできない上顎のようなブリッジをつくるかという3択となりました。

それぞれの選択肢の長所と短所を考えてみましょう。
①総入れ歯
<長所>
* 外科処置をしなくてすむ
* 短時間で制作できる
* 最も安価である

<短所>



* 以前より入れ歯が浮き上がりやすく、噛みやすさは低下するimage
②2本インプラント+総入れ歯
<長所>
* これまで以上に入れ歯が安定する

<短所>
* インプラントの本数が多いと高額になる

しかし、この症例の場合大きな問題がありました。レントゲン写真をに黄色のラインが引いてありますね。これは知覚神経の通り道で、この中の神経を傷つけてしまうと、麻酔をしたあとのように唇の感覚がなくなり、下手をすればそれが治らないという大変なことになってしまいます。そのため、骨の表面から神経までの距離が十分にないと、インプラントは入れられません。そうしてみてみると、この症例では奥にインプラントを入れられないことになります。

そこで、ウルトラC!奥のインプラントを傾けて入れることで神経を避けつつ奥にインプラントの頭を出すことができます。(最初にこのテクニックを知った時は、正直言って懐疑的でしたが、報告されている臨床成績と患者さんが受けられるメリットを考えると、症例によっては適応する価値があるのではないかと考えるようになりました。)

インプラント2本を支持源とした総入れ歯と、4本以上のインプラントでしっかり固定されたブリッジを比較した場合、患者さんの満足度はかなり違います。インプラント2本の場合、安定するとはいえ大部分が粘膜支持であるため、入れ歯を使っている感触が変わる訳ではありません。それにひきかえ、インプラントで固定したブリッジであれば別次元の噛み心地が期待できます。

さらにこの術式は、インプラントが骨に生着するまで入れ歯で待つ必要がなく、インプラントを入れたその日に仮歯で噛むことができます。つまり、1日で別次元の噛み心地が得られるのです。ただし、それなりのテクニックが必要で、簡単な治療法ではありません。つまり、失敗する可能性もインプラント2本より高いということです。

これらのことを何度も患者さんに説明し、じっくり考えて頂いた結果、最後に説明した4本のインプラントで固定性のブリッジを入れるという選択肢を選ばれました。

インプラントの手術
●安全な手術のために

  

さて、先ほどこの手術は難しいと説明しました。何が難しいのかと言えば、歯が残っていないと目印がないために、どこにどの角度でインプラントを入れればいいのか分からなくなってしまいます。そのため、当院ではCTにてあらかじめ治療計画を立て、そこに寸部違わずにインプラントを打ち込めるようコンピュータで作ったガイドを用い、インプラントの位置決めを行っています。

CTの治療計画図をご覧ください。レントゲン写真と同様に、黄色で神経の通り道を明示してあります。それを避けるようにインプラントを4本設計しました。黄色い筒状のものは、安全域です。つまり、少なくとも黄色の棒に神経が触れているのであれば危険ですよという意味です。奥の2本のインプラントを約30度傾斜させ、神経から安全な距離を確保しているのがお分かり頂けると思います。

水色の塊は、入れ歯です。これがCTに写り込んでいることで、インプラントの位置と角度を最終的なブリッジを想定して決めることができます。透明で金属の筒が埋め込んでるのが、手術用のガイドです。これは、CAD/CAM(コンピュータが作ってくれるもの)で製作されているため非常に正確なものができてきます。

次の写真がそれを実際に使っているところです。金属のチューブにドリルを入れて削っていけばコンピュータで設計したのと寸部違わずインプラントを入れることができるという優れものです(とはいえ、これも使い方を誤れば思った通りにはいきません)。こうした最先端技術を使えば、少々コストはかかりますがより安全で侵襲の少ない手術が可能となります。

手術直後

  

この症例ではまず、抜歯をして、富士山状にとびでた骨をなだらかに削り、その後にインプラントをいれましたから、手術自体は1時間30分ほどかかっています。ガイドがなければおそらくもっとかかっていたでしょう。写真は、手術当日の写真です。ご覧のように、インプラントに固定された仮歯がたった1日で入りました。とはいえ、手術時間よりも仮歯を作る方が大変で半日がかりでした。

緑色の糸が歯茎のところにちらりと見えますね。仮歯の色が途中で変わっているのは、上の方があらかじめ作っておいたもので、下の方は当日種類の違う材料を加えたため色の段差ができてしまいました(機能上は問題ありません)。真ん中の写真をご覧ください。真っ白いセメントが詰めてあるのがお分かり頂けると思いますが、これはインプラントと仮歯をつなぐねじのアクセスホールを埋めたものです(よくわからない方はインプラントの構造をご参照ください)。そして、レントゲン写真をご覧ください。当然ですが、ほぼ治療計画通りのインプラントの配置ができています。白い編み目は、仮歯の補強線です。

さて、患者さんの感想です。
「とにかく疲れた!」
  お疲れさまです。こんなに長く歯医者にいることはないですものね。
「噛めるんだけど、怖くてなかなか噛めなかったわ」
  そうなんです、噛めると言われてもなかなか思い切って噛めない方が多いようです。
「でもゆっくりだけど、ご飯は食べられたわ」
  よかったです。インプラント2本だけだとこうはいきません。

完成
●コンピュータを駆使しています

インプラントを入れてからおよそ3ヶ月。いよいよ完成です。実は、ここにも最新の技術が使われています。レントゲン写真上で仮歯では編み目だったものが、しっかりした金属の骨組みになっているのがお分かり頂けると思います。これは、チタンの削り出しです。つまり、チタンの四角い塊をコンピュータで削ったものです。

何がすごいのかと言えば、寸法精度が驚く程高く仕上がります。以前は金合金などを鋳造して作っていますが、どうしても鋳造時の変形があり、4つくらいに分割してお口の中で位置関係を確認し、溶接して精度を高めていたのですが、それでも若干の誤差が生じ、何度かやり直さないとなかなか満足な精度に仕上がらず、大変苦労していました。それが、コンピュータの削り出しだとまず狂いはありません。さらに、金合金に比べチタンの価格は低いため、安く仕上げることができます。またチタンは金合金に比べ生体適合性も高く、一石三鳥といったところです。

さて、患者さんの感想です。
「入れ歯のように取り外す面倒がなく、快適!」
「何でも食べられるようになったから、かえって太ってしまいそうで怖いわ」
「ブリッジの下に食べ物が入ってしまうと、取りづらくていやだわ」
そうです。この症例の場合その辺に欠点があります。もう少し骨と歯茎があればそれも解決できたのですが。

  

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